4 パーソナルからパブリックへ
排他的構造から包摂的社会へ
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阿部
ここでパーソナルとパブリックという観点で少し。パーソナルな領域と、パブリックの領域っていうところ、少し整理が必要な気がします。つまり個人の内面がパブリック化していくプロセスについて、です。
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阿部
たとえば昔の性的少数者の人々は、互いに互いを相当罵り合っていた記憶があります。彼らも自分自身の内面にある種の凶々しい輝きを抱えていることを自認していた。一方、現在の人たちは同じ枠の中に入れられてしまうことに抵抗感は感じないのかと思うことがあります。これは単に時代の変化でしょうか。
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石井
ジェンダーについては勉強不足なんですが、少なくともどんな人にも複数のジェンダーが眠っていることを認識させられます。他人事ではないです。啓蒙活動が広がると、我々のコミュニケーションは変わるのでしょうね。ただ、社会通念を変える方法がデジタルに偏り杓子定規に個々人のジェンダーがチェックされ透明化されることには、不安を感じます。
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中野
ジェンダー関係に関して、アレサンドロ・ミケーレ2が2015年にfluid(揺れ動くもの)でいいっていったのが画期的でした。ジェンダーなんてその日の気分でいいっていう。そういうジェンダーフルイドの概念が出されてから罵り合いがなくなったんじゃないですかね。ジェンダーは揺れ動くものでいいんじゃないっていう考え方が社会を変えた。これもファッションの力ですよね。2GUCCI(伊)の元クリエイティブディレクター。スヌーピーは哲学者であるという主張をして譲らないという逸話を持つ。
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石井
本当ですね。
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中野
それ以降、デモも少なくなりました。
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阿部
なるほどです。ファッションの本来的な力、そのメッセージ性で「排他的」構造を「包摂的」に変化させた。ただ確かに石井さんのおっしゃる通り、依然としてまだ細心の注意とケアが必要とも感じますね。
指標として目に留まりやすいファッション領域から〈ラグジュアリー〉が社会を変えたひとつの実例として。中野氏により既に言及されているが、経済効率や合理性を主要な論理基盤とする権威的、あるいは排他的構造のなかで、市場を見据え戦略的にマネジメントされる企画型の商品やサービスに翻弄され続けた消費社会の疲労が(石井氏により指摘されたように)人文学を起点とする新しいラグジュアリーの考え方によるコミュニケーション、関係価値を含めた「包摂的な社会構造」への変化を促している。
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石井
地域や生活シーンによっては、ジェンダーフルイドから遠い場所も多いと思います。
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中野
地方の偏見は凄い強いなと思うことはありますね。
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石井
安心して集まれる場所が必要ですね。
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中野
若い人が地方に居つかないっていう理由のひとつはそこかもしれないですね。偏見でもう息苦しくなるっていう。私もたとえば「知事を囲む会」みたいなのに招かれたりすることもあります。25歳から35歳の女性がとにかく居つかないのをどうすればいいかとうことが議題になったりします。子育て支援策とか言うんですけど、すぐ子育てに話がいってしまう思考そのものが問題なのではと思ったりします。行き遅れとか出戻りとかいう言葉がいまだに存在するそのカルチャー自体がとにかく居心地が悪くてしょうがないっていうことが理解されていないっていうところがあるなあっていう感じがします。
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中野
子育てとか言うからみんな居なくなるのよって、そう思うんですけどね。(笑)
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阿部
それは私のところもそうです。もう全国的な問題かもしれませんね。
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中野
肝心の問題にされている年代は、これ言ってももうアカンわっていうことで出ていっちゃうわけですよね。
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阿部
若い女性が輝く場所っていう話でいえば、安西さんとのインタビューでもやっぱり出てきましたね。そういう方々をいかに支えていくのかっていうような問題意識っていうのは必要です。で、今の女性ってすごく優秀じゃないですか。斬新な考え方を持った人も出てきて。
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中野
倫理観も高いですしね。
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阿部
で、そういう人たちを支える仕組みがまだやっぱり。まあ行政の仕事ではないけれど、地域のなかで生まれてないんですよね、まだ。そういう人たちがイニシアティブをとって何らかの事柄に取り組んでいくと新しいものが生まれていく。そこにやっぱり新しいラグジュアリー、例えば中野さんが書いてらっしゃった、コスメティクスのメーカーで、SHIROさん。
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中野
北海道の方で。もう会長になられましたけど。大胆というか、まっとうに自分の使いたいものを作ったっていう。もともとお土産屋さんだったのですが、大企業の化粧品会社のOEMもやっていて。その化粧水の成分の90%以上が水なのに値段が高い。私はこういうの使いたくないわって、彼女は思って。素材を探して世界中探したけども納得できるものがなくて、結局、地元のガゴメ昆布に行きつきました。地元の素材を使って自分が納得できる製品を、自分が使いたいと思う製品を作っている人ですね。
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中野
その利益を砂川のプロジェクトにあてています。砂川に工場を作って、砂川の人たちがそこで働いたり、集まったりできるような街全体を復興させるようなプロジェクトをやっていらっしゃるんですよね。
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阿部
そこはクチネリ的ですよね。
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中野
そう。
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阿部
こうしたお話を聞いてるだけでも、女性の方が興味深いし面白い。男性の方がどっちかっていうと今元気なくしちゃってて。僕もやっぱりミラノだと、付き合いがあるのは女性の方が多いですね。
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中野
正直だからじゃないですか。女性の方があんまり背負ってるものが少なくて。正直に言えることが多いのかもしれないですね。
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中野
企業とか、特に大きい組織を背負っている男の人の集団に行って、それこういうことじゃないですか、みたいなこと正直に言うと、もしかしてそれは口にしちゃいけないことだったのではないかという空気がただようことがある。(笑) やっぱり男の人が面白くないっていうのは結構自制されていることが多いのかもしれません。
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石井
解放されたいんですよね、きっと。
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阿部
意思の表示が大事なんですよね。言えるか言えないか。結果に大きな差が出てくる。本当は違うだろうと思うのに、そうですと言わざるを得ないような状況は今の社会のなかに依然としてあります。そのなかで、いやそれは違うって言えることは非常に重要ですよ。
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石井
健康年齢や寿命も女性の方が男性より上ですから。長く元気に生きるために、女性の生き方から学ぶのは良いのではないですか。(笑)
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阿部
家族含め、自分の人生を多くの女性に囲まれて生きてきたからこそ、背を向ける男性もいるんですよ。多分。(笑)ただ、今の時代話して面白いのはやっぱり女性ですよ。それは間違いない。で、やっぱり社会を引っ張っていくようなエネルギーを感じるのもやっぱり女性の方が多い。自分の今のポジションで、その辺りを支えていくようなシナリオが描けるといいなと思っているんですけど、地方都市はこれからでしょうね。秘めているものはあるんだろうな、と思うんです。ただ独立と成功って、同じようで全然違うものですしね。銀座の資生堂本社の前をですよ、シャネルの真っ白なスーツに身を包んでポルシェの鍵を指でこう、クルックル回しながらね、こう練り歩いていくような姿じゃなくて...。
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中野
居ないって。(笑)
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阿部
居ないんですか?(笑) まあ、もちろんそっちを言いたいわけじゃなくて、〈独立〉の方。この時代に、この社会で、この場所からの「独立」を考える女性、潜在的に多いんだと思うんですよ。女性に限らずですが、そういう人たちのお役に立ちたいと思っています。そこを期待しながら、ですね。そろそろ時間かなと思ってたりもするんですけど、どうでしょう、石井さん。
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石井
今回の新ラグジュアリーの講習会はありそうでない、かなり自由なプログラムでした。その後、いろんな大学が、安西さんが関わっている京都大学も含め、「新しいラグジュアリー」とは言わなくても、新価値創造プログラムを開講しています。また子供達を時代にあったカリキュラムで育てる新しい学校もできている。教育は大事だと思うんですけど、私はこの間のプログラムでは先導してくださる5人の方々の人柄に惹かれたところがあるので、ラグジュアリーを作る限りは、やっぱり作る人にかかっていると思っています。
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阿部
僕も人間に目を向ける、むけていかなくてはならないという現在の局面をあらためて認識しましたね。
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石井
学校作るってすごい意気込みです。それだけの決心をする方が今増えてるっていうぐらい、何かを変えなきゃならない状況なんですね。
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中野
同じ動きがこう各地で出てきているので、非常に頼もしいなあと思いますよね。それを言語化して後押しできたとしたらそれが一番の幸せかなとも思います。
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石井
本当ですね。
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阿部
読んで響く人は相当多いと思いますよ。で、やっぱり一人でも多くの人に読んでいただくと、社会そのものも変わってくるような気がするんですね。で、そういう風景を僕ら自身も見たいじゃないですか。
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中野
言霊の力っていうのは大きくて。身も蓋もない現実を見せられていくのも結構なんですけれど、そうじゃなくて、実現したい方向に光を照らしつつ、なかば願いをこめて書き上げたのは大きいですね。
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阿部
中野さんがおっしゃる、ヒューマニティの探求を通して移り変わる表層と向き合い、そして世界の新しい見方を届けて行く、というその言葉が実際に今、私たちの目の前で本当に実践されている、ということに深い感動を覚えますし、強い高揚感を感じます。参考: http://www.kaori-nakano.com/
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中野
本当にありがとうございます。理想を掲げないとつらい現実を生きられないものですから。(笑)
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阿部
このような表明をされていく方が一人でも多く増えていくことを願って。
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阿部
本日はお忙しいなか、貴重な時間をありがとうございました。