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〈新しいラグジュアリー〉というテーマを中心としたさまざまなお話を伺うなか、そこに通底していくのは「いかに個人や社会がその内面と向き合い、そして満たしていくのか」という問いであり、願いである。安西氏は本書のなかで「欲しいのは、行く先に灯を見つけ出そうとする能動的な願い、自らを再起動する力を実感すること」と述べている。
できれば本稿を読まれる多くの方々に、氏の他メディア連載含め、執筆された書籍の数々を手に取っていただきたいと考えている。

  • 阿部

    今日頂いたお話は、地方都市には刺さると思うんですよね。最近は行動制限もありましたし、以前ほどではありませんが僕も欧州の富裕層の誘致を、といわれることは多かったわけです。ところがまあ、欧州の富裕層自体、変化のタイミングにあってなかなかこう…。まあ言ってしまうと、クライアントの期待するイメージ、彼らが納得するような結果を実現できるかっていうと、もうそういう段階ではなくなってきてるわけです。で、そうした状況を理解していただくためにも「新・ラグジュアリー」の意味はすごく大きいと思ってるんですよね。それはやっぱり伝えていく必要があって。まあ僕個人としてのポジションは小さいんですけれど、アナウンスをして行くんだと。そういう役割が多分求められるんだろうなという気持ちになったんですよね。

  • 安西

    まあ、さっきの医薬品の話で、彼と昨日話をしていて、ほう、と思ったのは、彼は日本には何回も行ってるわけだよね。で、日本の印象として、学生の時は学制服を着ていて、社会人になるとサラリーマンスーツを着てるわけじゃないですか。で、そのあいだの服、そのあたりが、まあ何て言うかな、下手って言い方はしないんだけど、なんかまだまだやる余地がいろいろあるね、みたいな話をしてたんですよ。もちろん今若い人たちがみんなオシャレになったとかさ、例えばあるいはブルネロ・クチネリも 30 代ぐらいまでの日本の男性の重ね着がすごく参考になるとかさ、そういうことをいってるらしいんだけれど、やっぱりイタリアの人から見たときにその制服と制服の間にあるこの領域、まあ、自由時間だよね、それこそね。(笑)やっぱり服から見ても自由時間の考え方に未成熟さみたいのがあらわれるみたいな話。で、ここは昨日話しながら、やっぱりでかいテーマだなあと思ったんだよね。

  • 阿部

    こう、日本の若い人がまあ、例えば原宿文化のようなもので評価される時に、エディターシップ的な感覚があったと思うんですよね。そういう意味で、あるものを改善して行く方向ではそれなりの能力を発揮するんだと思うんですよ。で、そういうものを取っ払ってしまった時、多分ゼロベースではあまり考えることができないっていう傾向はあるかもしれません。仕事の面でもそういうところはありますよね。

  • 安西

    そういう意味で、日本の社会っていうのは結構まあ女子高生なんかも含めて、人にとか、ある現象についてラベリングするのは凄い得意じゃない。でも、ラベリングした後に、それ剥がして次の新しいラベルに変えたりとか、あるいはその構成を変えるみたいなのが苦手。そこがやっぱりちょっと不足してるところですよね。

  • 阿部

    私の姪っ子が、もう中学生になったのかな、で、まあ今どきのアイドルグループが好きだっていうわけですね。で、僕は改めてテレビでそのグループを見てみたんですよね。そうすると、まあ着ているものは、言ってしまうとパッとしない。で、それはやっぱり意図的なものだと思うんですよ。まあ、高価なものを若い子は着ないっていうのはロジックとしては正当性があるし、それはその通りでいいと思うんですけれど、あれは事後的に与えられたもの、単にイメージですよね。それは、もしかすると今のような話に繋がっていくのかもしれないですね。やっぱり。

  • 安西

    うん。なんだろうねでも。日本の文化は非常に曖昧なところが多くて、その曖昧な、何ていうか境界と境界の間にこそ味があるみたいなこと言われるんだけど、なんで仕事ではない場のカジュアルファッションがいまいちっていうことになっちゃうんだろうね。(笑)

  • 阿部

    うーん、ファッションはどうなんだろう…。もちろんファストファッションでもいいんですけど、我々みたいな、割とテキスタイル見てきた人間がぱっと入ると、まあ色は改善の余地が相当あるかも。

  • 安西

    いや僕も、さっき靴下の話してたじゃないですか。こっちの靴下って穴が開きやすいでしょう。で、家の中ではく靴下は日本で買ってくるともう何年も使えるわけですよね。で、その何十色もあるようないろんな柄のあるやつで、なんか魅力的なものがあるかなって探すと、なんかつまんないやつが多いんですよね。色とね、柄ね。なんか考えましたみたいな柄なんだよね。

  • 阿部

    バリエーションさえ増やしておけばとりあえず何かひとつは視界に入るだろうっていう発想なんだと思うんですよ。で、ここを広げていくことに何の意味があるのかという問いが近い将来出てくると思うんですけど、まだそこまでは行ってないんでしょうね。

  • 安西

    かといって、もちろんイタリアの靴下がみんな柄がいいわけじゃなくてダサいやつなんかたくさんあるんですよね。なかなか難しいじゃない、柄合わないっていう、靴下難しいなあと思ってて。前だったらロングの靴下でスーツで履くとかさ、で、柄はないみたいなことが多かったんだけど、今僕スーツなんか着ないし。そうするとやっぱり柄物のショートソックスで探すと案外苦労するよね。

  • 阿部

    そうですね。まあ、アーガイルさえ出してればカジュアルソックスは OK っていう考え方があって。間違いではないんだろうけれど、ちょっと寂しいよねっていうか、物足りなさを感じたりもしますよね。まあいろんな要望収斂させてビッグデータを分析した結果、マーケティングの結果が多分あれなんだと思いますよ。

  • 安西

    うん。そうなんですよね。

  • 阿部

    私なんかがイタリアに行った時、まあ手ぶらで帰るのも何だからって、あれカミーチャカミーチャでしたっけ?何かのチェーン店。あのお店入って挨拶して商品手にとって。まあ僕は比較的ゆったりしたサイズ感が好きなもんですから、ワンサイズ上を買うんですよ。そうすると店員が、店内に響きわたるぐらいのデカい声で、No!サイズ違う!って。(笑)でも、やっぱりそのぐらいの方がですね、僕は買い物をするという醍醐味をしばらくぶりに感じたなあっていう気持ちになったわけですよ。

  • 安西

    うん、そうだねえ。まあ、どっちががいいのかな…。(笑)

  • 阿部

    (笑)まあ、イタリア衣料のひとつの良さっていうのはテキスタイル、今はトルコ製なんですかねみんな。そうでもないのかな。

  • 安西

    例の経産省のファッション政策室のデータによればイタリアもそれなりにテキスタイル輸出もしてるしね。うん。それは日本よりもやっぱり。で、フランスが出てこないって言うのはおかしいよね。フランスは本当に自分たちで作ってないんだなと思う。

(参考 : 「ファッションの未来に関する報告書(2022)」経済産業省, 76p)https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/fashion_future/pdf/20220428_1.pdf

  • 阿部

    フランスはワインなんかも一兆円産業だったのがイタリアに輸出で抜かれたという。

  • 安西

    まあね、でも本数で抜かれたけど金額ではまだフランスのほうが多いんじゃないの。その辺だよね。

  • 阿部

    日本で言うと、私より一世代上の時代は例えばプレタでも、デザインも素材もイタリアは素晴らしいんだけど、とにかくほつれる、ボタンは取れる、クリーニングは出せない、出す方が悪いっていうまあそんな状況だったらしく。ただやっぱりモノはフランスよりイタリアのほうがいい、魅力があったと言ってましたね。

  • 安西

    いや日本に行った時にさ、実家の近くのクリーニング屋にシャツ持って行くじゃない?そうするとさ、イタリア製とか外国製のシャツは品質保証しませんって言われるよ、書いてあるんだよね。(笑)

  • 阿部

    そうですか。(笑)いやこっちでもフランス系のコングロマリットの、例えばダウンなんかものすごく高級なものが出てきていて、20 万 30 万っていうお金をとっていくという、ただあれも着るものですからクリーニング出すんでしょうけど、受ける技術ですよね。

  • 安西

    ああなるほど。

  • 阿部

    そんな高級なダウン駄目にして損害賠償を求められたらどうするんだっていう話もあるんだと思うんですけど、ケアができないようなものですら一般の流通経路に入ってきている。でもそもそも維持ができない、リアルな実生活がそれを支え切れないっていうところ、まあ可処分所得のレベルに関わらず出てきていてちょっとギャップが出てきてますよね。それはあると思います。

  • 阿部

    ただ、本当にヨーロッパ発として我々が受信している情報はかなり減ってきてるんですね。まあ、例えば一般生活だとか、イタリアの文化とはこうなんですよっていうような普遍的なテーマに沿ったものはある程度入ってくるんですが、それを発展的に活用できるようなインプットっていうのはなかなかないですね。で、この前アマゾンのサイトで自分のデータいろいろ見てたんです。そうしたら私がアマゾンのほしい物リストに安西さんのマルちゃんの本を入れたのが 2011 年だったんですよ。

  • 安西

    おーありがとうございます。10 年以上前だね。

  • 阿部

    当時から安西さんのような発信をされる方っていうのは少なかったと思うんです。で、今でもそれはあまり変わってないと思うんですよね。ヨーロッパだけでなく、アメリカでも、まああるいはこうイギリスでも、なかなか見えなくなってきたっていう実感はあって。僕自身はそうした問題関心の領域に少しでも近い位置で、あるいはより近づきたいっていう気持ちがあって、まあ今の事業設計に入った経緯があるんですよ。まず解決するべきは情報の非対称性であって。その非対称性がきちんと解消された状況をまず作って、きちんとした受け皿を作ってあげれば、もう少し地方のスモールビジネスは動かせるっていう感覚があるんですよ。

  • 安西

    うん。なるほど。

  • 阿部

    ただ、いまの日本はどうしても功利的に考え過ぎてしまう部分がありますから、大きな目標や、あるいは人生観のようなものを共有していくシナリオはなかなか出てこないんですね。私のヒアリング能力もあるのかもしれませんけど。ただ、今後の日本の地方都市、あるいはローカルビジネスのひとつのあり方というのは、先ほど話に出たような、さまざまな場所やさまざまな人たちが望む、あるいは創造する新しい〈風景〉、そこにどれだけコミットメントしていけるのかが、かなり重要になっていくと思うんです。そして今回、安西さんと中野さんがご提案された「新しいラグジュアリー」はその中心に、間違いなく必要となるものです。僕自身は、そう確信しています。今後もそこにはこう、さまざまな形でお役に立てる、貢献できる仕組みを作っていきたいですね。

  • 安西

    そうですか。まあ、僕がアドバイスできることはいつでもどうぞ言ってください。

  • 阿部

    はい。本日はありがとうございました。では、この辺りで。

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