Introduction

安西 洋之
モバイルクルーズ代表取締役、De-Tails Ltd. ディレクター

東京とミラノを拠点とした「ビジネス+文化」のデザイナー。欧州とアジアの企業間提携の提案、商品企画や販売戦略等に多数参画してきた。 デザイン分野との関わりも深い。2017年、ロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』(日経BP)を監修して以降、「意味のイノベーショ ン」のエヴァンジェリストとして活動する中で、現在はソーシャルイノベーションの観点からラグジュアリーの新しい意味を探索中。またデザ イン文化に関してもリサーチ中である。著書に『メイド・イン・イタリーはなぜ強いのか』(晶文社)など。訳書にエツィオ・マンズィーニ 『日々の政治』(BNN)がある。

Hiroyuki Anzai

「新しいラグジュアリー」の時代へ - 意味のイノベーション /〈内面をみたすもの〉

本書の指摘によれば、欧州発が全体の7割を占めるとされるラグジュアリービジネスの多くは、先端的技術やハイテクノロジーを中心として発展してきたものではなく、それぞれに特色のある〈文化〉が主体となり経済体を形成、成長してきたものです。
その意味においては現代のローカル文化やローカル社会にこそ、本書が提案する「新しいラグジュアリー」の世界は広がっていく、と考えることができます。本書から一部を抜粋します。

“新たな風景を見つけられずにいる従来のラグジュアリーモデルが旧型になり、ローカル文化に基づいた「新しいラグジュアリー」が各国でうまれつつあり、それがさらに拡大していく兆し”(9P)

“2015年頃から、今までとは違うラグジュアリーのコンセプトを彼女は耳にしました。「人間的」または「意識的」との形容がつくラグジュアリーです。これは働く人たちやコミュニティにとって「サステイナブル生産」であり、「透明性」のあることを重んじ、言ってみれば「人が生きる上でのコア」にブランドメッセージを寄せていくものです。[...] たとえば田舎にある職人分野の生活や、ウェルビーイングを尊重しながら、ローカル文化にある価値を活かしていこうとします”(34P)

このテーマを紹介していくにあたり、著者の安西洋之氏にお話を伺いました。
氏の深い洞察と広範な知見から、これからの社会や個人の〈内面をみたすもの〉とは一体何であるのか、その形が見えてくるようにも思われます。

  • 阿部

    お疲れ様です。

  • 安西

    お疲れ様ってなんのお疲れ?(笑)

  • 阿部

    いやいや(笑)、なんかお忙しいところに。すいません。(笑)

  • 安西

    今日休みですよ。(笑)

  • 阿部

    え、ほんとですか?

  • 安西

    うん。あのなんだっけ、Giorno di Repubblica か。割とこの日の休みって忘れるんだよね。

  • 阿部

    僕なんか曜日分からないですからね、もう。自宅兼事務所にしてるもんですから全然頭に入んないです。サマータイムで知らないうちに時差変わってるのが怖いんですよ。

  • 安西

    そうなんだよね。(笑)ま、とにかく今日本の方が休みが多いじゃない、全然ね。

  • 阿部

    まぁ、結構増えましたしね。多すぎですよ。(笑)

「新しいラグジュアリー」という安西氏と中野氏の、この魅力的な提案をローカル・リージョンレベルでの具体例として受け止め、理解していくため重要な鍵となるのがエツィオ・マンズィーニ氏の『Design, When Everybody Designs(2015)』である。ここで論じられた「Design Mode Map」が近視眼的理解を避け、包括的に全体像を把握するうえで有用と思われる。

本書のなかで安西氏は「新しいラグジュアリーは、日々の生活と社会を変えていくソーシャルイノベーションのひとつとして見るのが適当である」と述べている。一般的にソーシャルイノベーションとは『社会的ニーズを満たし、同時に社会的関係やコラボレーションを創造する新しいアイデアである。それは社会にとって価値を生み、社会の活動能力を高めるイノベーションである』と定義されている。なお、マンズィーニ氏はこの領域における第一人者であり、本稿冒頭の挿絵はその広汎な思想の一部を情景としたものである。

  • 阿部

    今回のテーマは、まずご出版された「新・ラグジュアリー」に関して、です。大筋としてはその構図について、ですね。で、現在地方都市ではスタートアップの機運が高まっておりまして、その流れで自治体の視界には海外事業者の誘致も入ってきています。まあ、スタートアップは今の日本政府が掲げる「新しい資本主義」の重点投資対象にも位置付けられてまして。そうした意味でも、今回のご著書で紹介されておられます世界各地のラグジュアリー・スタートアップの動きは非常に重要ですし、強い関心を持って見ていく必要があると思うんです。

  • 阿部

    例えば現在、北海道の中心都市でスタートアップが取り組んでいるのは、IT 技術や先端テクノロジーを使い、社会に新しい価値を創造する、といった方向性です。その一方、北海道東部ではインバウンド方向、地域性の高い文化だとか、あるいは自然、それらに紐づけられるようなアクティビティですよね、そういうものを結び付けてひとつの産業としてやっていこうという流れがあるわけです。要素としては、このふたつだけでも「新しい価値の創造」が出てきますし、「スタートアップ戦略」もある。で、当然「ローカルコンテクスト」も大切になってきますし、「異文化理解」も必要になる。それらは普通に見て、バラバラです。で、まあ実際バラバラにやっている。それはそうなんですけれど、そうしたなかで今回安西さんと中野さんがご出版された「新・ラグジュアリー」の提案があるわけです。

  • 安西

    うん。

  • 阿部

    そのなかに集約の構図、あるいは全体像を捉えていく契機が示されていたと思うんですね。いわば空白だった軸の中心に「新しいラグジュアリー」という提案が代入される。そしてその中心を深く論じていくことによってむしろ全体性が見えてくるという、個人的には今までなかった感覚を感じたわけです。で、このあたりを包括的に見ていく時に、私が重要だと思うのは安西さんがよく使っていらっしゃる、エツィオ・マンズィーニさんの「Design mode map(次頁参照)」なんですよね。あの四象限の。

  • 安西

    ああ、はいはい。

  • 阿部

    ここを紹介していくことから始めると、読み手の方々に、より体系的に「新しいラグジュアリー」、あるいはその構図を示して行くことができるんじゃないのかなっていうのが、今回のシナリオなんですよ。まあ四象限の話になってくるんですけれど。

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